声に出さないと、社会は変わらない。
「待っているだけじゃ社会は変わらない。つねに声に出すことが大事なの」
韓国・ソウルを拠点に活動するアーティスト、メイ・キムの言葉は力強い。CGアーティストやアートディレクター、エディター、デジタルディレクターと多彩な顔をもつメイはアメリカで生まれ、「声に出すこと」の重要性を肌身に感じながら育ったのだという。
「アメリカにいたころ住んでいた場所は住民の80%以上が黒人で警察は白人だったからか、何の罪のない人が警察官に殺されたり、差別を受けたりするような事件が多くて。“JUSTICE=正義”が大学の授業のメイントピックだったほど、人権を踏まえたうえで行使される正義とは一体なんなのかよく考えてたの。わたしもマイノリティのアジア人として街で差別を受けることは多かったしね。そういう同じ境遇の友だちとよくデモに参加して、声を挙げて行動に移せば社会を少しでも変えることができるって学んだんだ」
インタビューを行なったスタジオは2020年1月に立ち上げたばかり。シンガー/アーティストのリム・キムとシェアしているという。
アメリカで培った“仲間と声をあげる”という習慣は、この2年間で「メインストリーム以外の多様性に富んだカルチャーを国内外に発信する」という彼女の夢を着々と具現化する原動力となっている。そのうえでは、Instagramには日々作品をポストするだけではなく、自身の美意識も伝えることが重要だと語る。
「最近発信していることは、これからの女性像について。まだまだエンターテインメント業界が見せる“かわいい”女性像が主流だから、わたしみたいな派手なメイクと服装で歩いていると異端(エクストリーム)な存在として扱われてしまうの。でも周りで表に立って表現する友だちは、そのエクストリームさを逆手に取って、若い世代に多様性に富んだ新しい美意識や可能性を見せようとしている。もう“かわいい”だけの時代じゃないってね」
二項対立を無効化する“エクストリーム”。
カナダ発のタブロイド誌『Sneeze Magazine』のポスターなど、スタジオからはさまざまなカルチャーの影響が感じられる。
K-POPに代表される韓国のカルチャーはいまやグローバルコンテンツとなり、そこから生まれた“かわいい”女性像は少なからず世界中に影響を与えている。こうしたメインストリームの文化が巨大すぎるがゆえに、メイのようにオルタナティブなアーティストたちが活動する場が見えづらいのも事実。だからといって、メイはオーバー/アンダーグラウンドという安易な二項対立に乗ろうとはしない。
「韓国のクリエイティブシーンがメインストリームとアンダーグラウンドの真っ二つに分かれているなら、その間にわたしは“エクストリーム”って層を新しくつくりたい。アメリカで暮らしたときに沁みついた正義が、韓国の年功序列で堅苦しい社会にそう挑戦しろって語りかけてるの」
CGアーティストとしてアイウェアブランド、ジェントル モンスター(GENTLE MONSTER)や歌手リム・キムのジャケット、『W KOREA』などで数々の作品を手掛け、ときにInstagramで韓国のカルチャーや社会に対しての自身の想いをバイリンガルで語る。そんな多才な彼女をサポートするのは、リム・キムや3ピースバンド「SE SO NEON」のソヨン、シンガーソングライターのMoon、気鋭のスタイリストとして頭角を表すパーク・アンナ、DJ/モデルとしてインディペンデントに活躍するガヨンなど、これまでとは異なるかたちで活躍する女性アーティストたちだ。
新たな女性アーティストたちが躍進しはじめる一方で、韓国社会もまた日本と同じく家父長制の文化や年功序列の意識が強く、若い女性にチャンスが回ってくることは稀だという。日本でも話題となった韓国文学を中心とするフェミニズムムーブメントやK-POPにおける「ガールクラッシュ」の動きなど、一見韓国では女性のエンパワメントが進んでいるように思える。しかし他方ではジェンダーギャップも激しく、近年状況が改善されたとはいえ世界経済フォーラムが発表しているジェンダーギャップ指数は、153カ国中108位と非常に低い。いまなお女性は抑圧された状況にあるといえよう。こうした状況のなかで、メイに代表されるインディペンデントなクリエイターたちは、これまでとはべつのかたちで新たな女性像やカルチャーのあり方を提唱しようとしているようにも思える。
外側から見た韓国と、内側から見た韓国。
独創性の高い世界観が話題となり日本でも注目されるアイウェアブランドのジェントル・モンスター(GENTLE MONSTER)。メイは北京の巨大店舗プロジェクトにも携わっていた。
「2018年に韓国へ戻ってくる前は、わたしも海外の人と同じようにK-POPやIT産業の発展を見て、さぞかしポップかつ最先端で多様性に富んだ国なんだろうなってファンタジーを描いてて。でも実際帰ってきたら、雰囲気としては80年代のままで止まっている。まだ多くの人が若い世代の声を聞こうとしていないことにびっくりしたの」
外から母国に触れていったメイの目には、純粋にK-POP歌手やドラマなど、世界で活躍する若い才能が映っていた。しかし、韓国の社会は日本と同じく年功序列。実際にフリーランスとして仲間とともに声をあげていこうと活動を続けるなかで、いかに若いアーティストたちが年功序列の文化によって表舞台に出にくいか気づかされたという。
ファイティングポーズをとるメイの3Dフィギュア。2Dも3Dも関係なく創作に取り組むのはいまの彼女たちにとって自然なことだ。
「InstagramにDMをくれる若いファンも然り、わたしの周りのコミュニティにはたくさんの若い才能がいる。しかも自分がやりたいと思ったことに真摯に取り組んでいる。でも、年功序列の社会がなかなか多様性に富んだ若い才能に寛容ではなくて。決定権をもつポジションの人たちが、まだ自分の将来のことや経済合理性だけ見つめているというか。あるいは、若い子の支持を集めたいからって、表面的にインフルエンサーを巻き込んだりもしている。アメリカでは、コミュニティや企業の循環をアップデートしていくためにも若い子やLGBTQ+コミュニティの声に耳を傾けることは当たり前だったからこそ、最初はどうすれば韓国で自分の活動が認められるか不安だった」
とはいえ、そのカルチャーショックを逆手にとって新しい価値観を創造しにいくのがメイと同世代のコミュニティの強さだ。それは自身の世代の未来を明るくするためでもあり、これから同じく外から母国に帰ってくる次なる世代のための動きでもある。
たとえば、リム・キムと韓国の若い女性に人気なストリートブランド、MSCHFとのTシャツコラボレーションでは、どちらも若い女の子のファンを抱えることからローンチに合わせてイベントを行った。
「ただ単にパフォーマンスをする一方的なかたちじゃなくて、リム・キムの歌詞からとってきたTシャツのデザインにもある“I choose my own fucking seat”の言葉のとおり、ファンたちとこれから各々自分のやりたいことを選択し、どうやって形にするか対話できる場も設けたの」
時代錯誤の“ユートピア”をアップデートすること。
CGやグラフィックデザインだけでなく、実際に手を動かして作品をつくり企業とコラボレーションすることも多いのだという。
「いま一緒にいるみんなと出会ったのは意外と最近で、1年半前くらい。でも、リム・キムとシェアしているスタジオには、毎日のようにみんなが来て将来の夢や最近考えてることについてノンストップで話しつづけてる。まるで家族みたいな存在ね」
彼女たちがよく話すトピックのひとつには、親世代が築いた“テクノロジー”への過信や高度経済成長期に生まれた「働くことこそ生きがい」という価値観とのズレがあるという。
親世代が見失ったアートやファッション、カルチャーが豊かに育っていける環境。既存の枠組みのなかで競争しつづけなければいけない技術や経済ではなく、“韓国らしい”と言われる独自の感覚を探求することに彼女たちは未来を感じる。
「テクノロジーの成長だけに未来を感じてるなんてもう古いと思うの。新しいカルチャーに未来を感じることこそが最先端なんじゃないかなって。わたしの役割は、きっと昔韓国が夢見ていたユートピアを2020年流にアップデートすることだと思う。リム・キムもわたしたちの世代と一見関係ない古典的な音楽を現代の表現につなぎ合わせた。ここに集まるみんなとは、そういうふうに過去に置いてきた韓国の夢を現代に昇華する方法を模索している感じ」
若い世代を牽引する「オンニ」(韓国語で「お姉さん」の意味)として、ビジュアル表現を武器にメインストリームでもアンダーグラウンドでもない「エクストリーム」カルチャーを確立していく。そして、それは同じ境遇のアーティストやオーディエンスと一緒だからこそできることでもある。
「この国ではサブカルチャーが大切にされてこなかった。わたしはいまこうして現地のコミュニティにいる一方で、海外からの目線もわかる中立的なポジションにいる。だからこそ、多様性をこの地に見せられるんじゃないかなって信じてるんだ」
PROFILE
メイ・キム(MAY KIM)
韓国・テジョン生まれ。中学時代からアメリカで育ち、グラフィックデザインを学ぶ。大学卒業後はニューヨークで『2x4』や『Linked by Air』、『PIN-UP Magazine』などさまざまなスタジオやエージェンシーで勤務。2017年にソウルへ戻り『Dazed & Confused Korea』や「Gentle Monster」で働いたのち、現在はEsteemとSMエンタテインメントが立ち上げた「Speeker」でアートディレクターとして活動している。
Photos: Masami Ihara Interview & Text: Yoshiko Kurata, Shunta Ishigami Editor: Maya Nago
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April 15, 2020 at 05:00PM
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